子どもの発達

鉛筆の正しい持ち方にこだわらなくていい?作業療法士が提案する鉛筆の指導方法

子どもの鉛筆の持ち方が変だなぁと感じると、ついつい気になってしまいませんか?
鉛筆の持ち方を指導しようとしても中々思うようにできないことはないでしょうか。
この記事では、鉛筆の持ち方について解説するとともに、作業療法士である私が鉛筆(クレヨンも含みます)をどのように指導しているのかを解説していきます。
最後まで読むことで、子どもに鉛筆の指導をするヒントが得られるようになります。

「正しい」といわれている鉛筆の持ち方とは?

鉛筆を正しく持つことで 字を上手にキレイに書くことができるようになる と考えられています。そのため鉛筆を正しくない持ち方で使っている子をみると「鉛筆の持ち方を直してあげないと。」と考えるのではないでしょうか。

正しいといわれている鉛筆の持ち方は上記の写真のようになります。専門用語でいうと「動的3指つまみ」といいます。
どのように持つのかというと、

  1. 中指のつめの左側で鉛筆を支える
  2. 人差し指のお腹(指腹)を鉛筆に沿うようにして置く
  3. 親指で鉛筆を挟むことにより、親指・人差し指・中指の3指で鉛筆を持つ
  4. 親指・人差し指・中指の3指で鉛筆を動かして書く

となります。
この持ち方を「正しい持ち方」として、子どもに指導をしていくことが多いと思います。

「正しい」鉛筆の持ち方よりも大切な「動かし方」

正しいとされている鉛筆の持ち方を説明しましたが、幼少期の子どもは鉛筆をさまざまな持ち方をします。以下に示す図は、子どもの鉛筆の持ち方と動かし方の発達を示しています。

Schneck CM, Henderson A. Descriptive analysis of the developmental progression of grip position for pencil and crayon control in nondysfunctional children. Am J Occup Ther. 1990 Oct;44(10):893-900.¹⁾ より引用

こちらの研究では、手に麻痺などの障害のない3歳~6歳の子ども320人を対象に「図形を書くと塗り絵」をしているときの鉛筆の持ち方と動かし方を観察しています。
子供たちは鉛筆を使っているときに、a (左上)~ J(右下)まで10個の段階に鉛筆の持ち方をしており、研究では10個の持ち方と動かし方を、
 1.未熟な持ち方と動かし方( a ~ e ):腕全体を使って動かす
 2.未熟から成熟した持ち方と動かし方への移行期( f ~ h ):前腕を机に置いて手を動かす
 3.成熟した持ち方と動かし方( i ~ j ):前腕を机に置いて手首と手指を動かす
の3つのカテゴリーに分類しています。

未熟な持ち方と動かし方は5歳以降のお子さんに見られなくなりましたが、移行期の持ち方と動かし方は6歳になっても使用している子供が5~10%はいました。成熟した持ち方と動かし方は5歳以降になると全体の80%のお子さんが使用していました。
この研究で興味深いのは、6歳以降の子どもでも「正しい鉛筆の持ち方」以外の鉛筆の持ち方(主に i の持ち方)で課題をおこなっていたことです。このことは鉛筆を使う上で持ち方にこだわる必要があるのか?ということについて考えさせてくれます。
Heidi Schwellnus(2012)²⁾らは小学校4年生を対象にした研究で、鉛筆の握り方が子どもの書字の速度と読みやすさに影響を及ぼさなかったと報告しています。またBergmann KP(1990)³⁾は手に麻痺などのない485人の成人のうち、58人が「正しい鉛筆の持ち方以外の持ち方」であることを見つけました。

少し周囲の大人になった方の鉛筆の持ち方を見てみてください。1人1人さまざまな持ち方をしているのではないでしょうか。中には f や h などの持ち方で鉛筆を持って字を書いたり絵を描いたりしている方もいるのです。
持ち方はさまざまな持ち方がありますが、鉛筆を上手に使うために全員が共通していることは「動かし方(鉛筆を手指と手首で動かしていること)」が共通しているのです。

つまり鉛筆を上手に使えるようになるためには
「正しいとされる鉛筆の持ち方」よりも「どのように鉛筆を動かしているのか」が大切なのです。

鉛筆を上手に使えるようになるためには?

鉛筆を上手に使えるようになるための「動かし方のポイント」として

  1. 手指を動かして鉛筆を使うことができているか
  2. 手首がてのひら側に曲がらないでまっすぐになっているか
  3. 小指側のてのひらが机に接しているか

に着目する必要があります。
縦の線は手指の動き、横の線は手首の動き、曲線は指と手首の合わさった動きで書かれるといわれています。また手指を上手に動かすためには、手全体が机から浮いてしまうと動かしにくくなりため、これらのポイントが大切になります。

鉛筆の持ち方と動かし方を高める指導方法

どのように指導をすればよいのか、ここでは一例をお伝えします。

鉛筆の持ち方が未熟なカテゴリーのお子さん

未熟な持ち方のカテゴリーに含まれている a ~ d(子どもの鉛筆の持ち方と動かし方の発達の図を参照)では、手指と手首を使って鉛筆を使うことは難しくなります。
このようなお子さんは、微細運動の発達が未発達な可能性があります。
子どもの手先の使い方には一定の発達段階がありますが、微細運動は最も時間がかかります。手指をグーパーしかできない段階で鉛筆を持たせても、手指が思い通りに動かせないので未熟な握り方になってしまうのです。
微細運動に問題があるお子さんは微細運動の発達を促す遊びを先にすると良いでしょう。

微細運動の発達についてはこちらの記事で紹介をしています。
手先はつかうことで発達する~微細運動について解説~

微細運動に問題は少ないけれど、どうしても未熟な持ち方で鉛筆を持っているお子さんには鉛筆やクレヨンの形を変えてみるということをオススメします。

小指側のてのひらが机につかない、手首が曲がってしまうお子さん

手指と手首を使って鉛筆を使えるようになるためには、小指側のてのひらを机においておく、手首をまっすぐにすることが大切です。

小指側のてのひらが机に接しない場合は課題を変えてみるといいことが多いです。
白紙に自由に絵を描く課題では、大きく絵を描こうとするお子さんがほとんどですので、腕全体を動かすようになってしまいます。一方で枠の小さい塗り絵や小さいマス目に文字を書こうとすると手の動きを小さくしなければなりません。「枠やマス目からはみ出したくない!!」と気持ちが育ってくれば、はみ出さないように腕や小指を机に置いて描く・書くようになる可能性があります。課題によって動かし方を使い分ける子もいますので、課題をかえてみるとよいでしょう。

座って文字を書いたり、絵を描いたりしていると、だんだんと姿勢が崩れてしまい手首がまがってしまうお子さんがいます。そのような場合は壁などの垂直面をもちいると解決できることがあります。壁に向かって書いていると姿勢は崩れずに手首はまっすぐになっています。壁を使うと嫌がってしまうお子さんには、座っていても垂直面をつくることがイーゼルをもちいることもあります。

まとめ

鉛筆を上手に使うことができるようになるためには、
「持ち方」よりも「動かし方」が大切であることを解説しました。
鉛筆を使うときに、手指と手首が動かせるようになるために、未熟な持ち方の矯正は必要ですが移行期・成熟した持ち方になれば、あとは個人の使いやすい持ち方で鉛筆の動かし方をさせてあげるとよいと思います。

本記事の最後では指導方法についても言及しましたが、発達には個人差があるため1人1人に合わせた指導が必要になることも少なくありません。
お子さんの発達でお悩みの場合は、下記からご相談ください。

子どもの発達に悩む親御さんの相談に乗ります 子どもの「できた!」を叶える作業療法士が真摯に受け答えします | 子育て・教育の相談 | ココナラ (coconala.com)

最後までお読みいただきありがとうございました。

参考文献
1)Schneck CM, Henderson A. Descriptive analysis of the developmental progression of grip position for pencil and crayon control in nondysfunctional children. Am J Occup Ther. 1990 Oct;44(10):893-900.

2)Schwellnus H, Carnahan H, Kushki A, Polatajko H, Missiuna C, Chau T. Effect of pencil grasp on the speed and legibility of handwriting in children. Am J Occup Ther. 2012 Nov-Dec;66(6):718-26.

3)Bergmann KP. Incidence of atypical pencil grasps among nondysfunctional adults. Am J Occup Ther. 1990 Aug;44(8):736-40.