背景
注意欠陥多動性障害(ADHD)は、不注意・衝動性・多動性を主訴とし、生活上では気が散りやすい・計画的に行動することが苦手、順番が待てないなどの様子が見られます。
近年ADHDは実行機能(Exective function)の問題と関連することが提唱されています。
また実行機能は、将来の身体的健康・社会的地位などを予測することが明らかになっており、早期より実行機能を高める支援が必要です。
今回の研究では、ADHD児の実行機能を高めるためのトレーニングの有効性を検討することを目的としています。
方法
◇対象者:ADHD児 44人 平均年齢8.4±0.9
健常児 88人 平均年齢8.4±0.8
◇介入内容:
今回の研究ではADHD児にのみ 「Cognitive training」を実施しました。
参加者は週に1回90分のセッション(子ども60分・保護者30分)を12週間実施。
Cognitive training
・ADHDに伴う困難に対処するために必要なスキルや戦略を子どもに教える。
・日常生活で子どもがスキルを使用できるように保護者にもスキルの説明を実施し、生活の必要な場面で子どもがスキルを使用できるように合図を促してもらう。
具体例は研究には記載がなかったのですが、具体例を私個人の例で挙げさせてもらうと
・朝の登校前に、学校に行くための準備(ご飯を食べる・着替える・授業の用意)をしなければなりません。しかし計画的に行動することが苦手な子どもは、ついついソファで横になってしまったり、目の前にある玩具で遊んでしまったりして、約束の時間に間に合わないという様子がしばしば見られます。
そのようなときにホワイトボードなどに朝の準備のスケジュールを順番に示し、スケジュール通りに動くことをスキルとして教えます。
もちろん最初からスケジュール通りに動くことはできないため、子どもがダラダラしてしまったら、親の声掛け(合図)によって行動に戻れるように支援していきます。
上記に記載したスキルは「学校に遅れないで行くこと」を目標にしており、個人個人によって悩みは異なるため、目標に合わせたスキルを教えていくことになります。
◇アウトカム:
アウトカムは実行機能を複合的に評価するために神経心理学的検査以外にも、ADL場面での児童の様子を確認できるものが設定されました。
1.行動評価
・コナー行動評価
・BRIEF
・保護者の満足度評価(研究者が独自に作成)
2.神経学測定
・ストループテスト(抑制)
・RCFTレイ複雑図形(視覚性記憶・視覚認知)
・TMT(1:処理速度・視運動機能 2:シフティング)
・ハノイの塔(計画性)
・VF言語流暢
◇介入結果の分析方法:
1.ADHD児は介入前後に評価を実施し、ベースライン時と介入後の結果を比較した。
2.年齢とIQをコントロールを行った、介入後のADHD児と健常児の比較とした。
結果
1.ADHD児は介入前後に評価を実施し、ベースライン時と介入後の結果を比較
行動評価では「BRIEF」のShiftを除いて全ての項目で有意差が出ています。
日常生活上での変化では全ての要因で有意差が確認されました。
神経学測定でも同様に、ほとんどの測定で有意差が確認されました。
2.年齢とIQをコントロールを行った、介入後のADHD児と健常児の比較
介入後のADHD児は健常児と比較して、RCFT(レイ複雑図形)・ハノイの塔(計画性)・VF(言語流暢性検査)の成績に有意差が見られていますが、
RCFTの詳細得点、ハノイの塔の達成時間以外は効果量が小さいことが分かりました。
ADHD児、健常児ともに評価結果の差に有意差が少ないことから、ADHD児が健常児と同水準に達したと解釈することができます。ADHD児の結果に有意差があるデータもありますが効果量がわずかであることに注意が必要です。今後の研究に期待したいですね。
まとめ・感想
今回の研究では、ADHD児の実行機能を高めるための支援を実施し、効果を検証しました。
その結果、神経学的検査のみならず日常生活にも変化が見られています。
また年齢とIQをコントロールした健常児の実行機能レベルと同水準に達することができました。
実行機能のトレーニング(Cognitive training)を実施することで、個々の要素の機能に改善がみられただけではなく、生活上にも変化が見られたことが素晴らしいと感じました。